すると、私の話を聞いた学芸員さんは意外なことを言ったのである。
「ビワコオオナマズという学名が付けられたのはそれほど昔のことではありません。だからもし大昔からの伝承などがあったとしても、単に大きなオオナマズの話ということになるでしょう」
ほう。
その場でノートパソコンで検索してもらうと、確かにそのナマズが新種として登録されたのは1961年、つまり昭和36年。その本のタイトルが固有名詞としての“びわこおおなまず”だったのであれば、確かに昔からの伝承というには少し無理がある最近の話だ。
ただのオオナマズの話であれば「びわこ“の”おおなまず」となる可能性が高い。
さらに話はそのビワコオオナマズの名付け親であり、ビワコオオナマズ研究の第一人者であった友田淑郎氏に及んだ。
それは私が勝手に“絵本”と認識しているが、お話をまるで覚えていない点でこれはいわゆる昔話ではなかった可能性がある。もしかすると、この友田淑郎氏が書いた、あるいは関係している本である可能性もあるのではないかということだった。
さすが学芸員。研究者というのは着眼点と考察力が一味違う。
その友田氏はすでに故人であり、残念ながら本人に問い合わせることはできない。
ところが幸運なことに、この学芸員さんの知り合いだという現在のナマズ研究の第一人者の名前と著書を教えてもらうことができた。この糸はぜひとも手繰っておきたい。